幸福の国

幸福の国

今日も散歩に出かけよう
考え事をしていこう
照りつける太陽の下で
あてもなくひたすら歩く

見渡す限りゴミの山
ガラクタ、廃墟、粗大ゴミ
今に崩れそうなステージが
砂埃をまき散らす
あっちを向けば、キャンバスが
そっちを向けば、蛆虫ケーキ
錆びて壊れたサックスは
ブー、ブギ、ブギャギャ、ブー、バー、ブー
硝子細工の遊戯場は
色が薄れてセピア色
買ったばかりの参考書が
渦高く積まれ、また崩れ
今日もいつもと変わらない
平凡な一日だ。

私はなおも、ひたすら歩く。
傷つかないよう、冷静に。
考え事を巡らせて。
夢?生活?しがらみ?
ここはどこ?歩いているのは誰の体?

預けた糧はどこへ行く?
―働かない人のところへ。―

弱い人は守らなきゃいけないの?
―守ってあげなきゃいけないよ。彼らも生きているんだから。―

病気だったら人を殺してもいいの?
―仕方がないんだ。自分じゃわからないんだから。―

考えだけが空回り。
どうにもならない堂々巡り。

何処からか、小鬼の叫ぶ声が聞こえた。
悲鳴のような、癇癪のような、
野太くて、それでいて甲高い、
キイキイうるさい叫びが響いた。
違うとこから、怒号が聞こえた。
聞くに耐えない罵詈雑言。
麻袋の鬼達が、みっともなく罵り合い。 
あぁ、憂鬱だ。イライラするな。
だけど、文句は言わず、仏顔。

私は何故生きている?
あるいは何故生かされている?
どうやらゴミだらけの地球では、
私の存在が必要らしい。
何のため?と聞いたところで、誰も答えてくれやしない。
必要というのは方便か?そう考えたりもしたっけか。
言いくるめられ、操られ、
これじゃあまるで、AIロボット。
ご主人様に従うだけの操り人形木偶の坊。

何処からか、椅子が飛んできた。
避けた先にはバケツの山。排泄物で溢れては、蠅がぶんぶん踊ってる。
刃物を持った化け物が、私のことを追いかける。
逃げる私を何処からか、世間知らずのガキ共が、ヘラヘラ笑って眺めていた。

“バーカ、バーカ!弱虫毛虫!”

うるさい、うるさい!私の苦しみなんて、あんたらは何も知らないじゃないか!
でも、ここで叫んでしまったら、多分お縄になるだろう。

日が暮れて、夜になる。
シェルターの窓越しに空を見上げる。
銀の月や星共が、嫌という程輝いている。

一ふんっ、いいご身分だこと!一

中古品のテレビでは、外人さんがギター片手に歌っている。

“さぁ帰ろう、地球へ。みんなの故郷へ。風に向かって種を蒔こう。”

―呑気な歌を歌いやがって…。―

チャンネルを変えた。憧れの詩人が朗読をする。

“みんなを好きになりたいな。”

―ごめんね、私には出来ないの。―

またチャンネルを変えた。万札のおじさまが、
勇ましく演説をする。

“世の中で一番美しいことは、すべての物に愛情をもつことである。”

―それが出来たら、苦しんでいない!―

何時しか涙を流していた。
呼吸が粗くなっていく。
悲しい、苦しい、なんで止まらない!
助けてと叫びたい。
でもすぐにその言葉は飲み込まれ、
気がつけば手にリモコン。
ガシャンとテレビの断末魔。

私は何故生かされている?
もう、考えても答えは出ない。これ以上は出てこない。
結局、ゴミ山での生活が、一番安らかなんだと思い知らされた。

もうイイや、諦めた!楽しいことだけ、考えよう!わがまま放題やってやる!もう何もかもどうでもいい!壊れてしまえ!狂ってしまえ!
どうにでもなっちまえ!フッ…、フッフフフフフ、ウフフフフフフフフヒヒヒァアハハハハハ……、アハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハアハアハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハアハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…………

今日も散歩に出かけよう。
考え事をしないでおこう。
埃被った地球の下で
調子の狂ったウタをうタっテ

ゆうゃぁけ、キシャぽっぽ………
  まぁルぃタマぁごが、
          パちぃんとワレテえ!
           おウマのおやこぉが!
    ぱチンとワレて…………、
はぁこう、
      ハコォウ、
           おニぃぃいのパんツ!

   ハメハメハぁ、ぶう、ハメハめはぁ……
おはなぁがワラタぁぁ…、オォはなガわっらた

   あっるこぉぉお!アルっこオォぉお!

私ぃわあ、わたしワあぁぁあ、げんきいぃイヒヒヒヒヒヒヒヒヒャぁあはアヒャぁああはハハハはハハハ…アハは……、グスッグスッ、あうぅ
ぁ、ぁああはハハハハハハハハハ…………………………

コメント

“幸福の国” への2件のフィードバック

  1. 西の子
    西の子

    すごい。詩なのに絵本みたいに色彩が豊か。それでいてちゃんと衒学的。詩に対して敬意を汲んだ薫陶をやっている。感想を言えば言うほど陳腐。

  2. 田代ひなの
    田代ひなの

    コメントありがとうございます★
    ホントですか!?嬉しい
    理不尽な世の中に翻弄されて狂っていく人間の様子を表現してみました。

    たまにこんな狂った感じのも書いてみたいなと思って練習がてら書いてます(笑)

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