(女性向け1人芝居)
本日はLGBTQの未来を考える会にお招きくださり有難うございました…
ただ、正直よく分からないのは、どうして僕がLGBTQの未来を考える会に呼ばれたのか、ということなんです。
どうして僕を呼んだのですか?
僕は所謂、性的マイノリティとは全然違いますから。
僕は村林雅樹と言います。
3年前までは男でした。
男としては、背も低いし、体も異常に細いし、だからモテるわけないですよね。
物心ついた時から分かっていました。
こんな身体じゃ女から愛されることは一生ないんだろうと。
女のことはずっと考えないようにしていました。
それなのに、高校生の時、好きな子が出来てしまって…。
どこにでもいるような詰まらない女ですよ。
〇〇(自分の女優名入れる)っていう名前の女で、演劇部に所属してたんです。
彼女に近付きたいばかりに僕も演劇部に入りましてね。
彼女から愛されないことくらい分かってましたよ。
僕みたいなガリガリのチビがモテるわけないですから。
だから、彼女の近くにいられるだけで満足するつもりだったんです。
でも人間ってどうしようもないですね。
次第に彼女のそばにいるだけでは満足できなくなっていったんです。
ある日、彼女が演劇部の部室から出てきた時です。
熱に浮かされたように思わず声をかけてしまったんです。
『ぼ、僕と付き合ってくれませんか。〇〇さんが僕のこと好きじゃないのは分かってます。
でも○○さんと付き合うためなら僕なんでもします』って。
すると彼女はこう言いましたよ。
『ごめんなさい、私、他の人には言わないで欲しいんだけど、実は女の子が好きなの。
だから雅樹君が女の子だったら良かったのに。
雅樹君が女の子だったら私、あなたのことを好きになったと思う』って。
僕はその言葉を間に受けたんです。いずれにせよ、通常のやり方では、僕みたいな男が◯◯さんから愛されるはずはない。
でも、女になれば、◯◯さんは僕を好きになってくれるのかもしれない。
そこから先は変な夢を見ているみたいでした。
気が狂ったようにバイトして、お金を溜めて、それで外国に行って性転換手術を受けたんです。
手術まで漕ぎ着けるのに5年以上かかりましたけどね。
可笑しいですか皆さん。
人から愛される自信の無い男が、初めて愛される希望を持ったんですよ。
愛される可能性が全く無いということがどれだけ恐ろしいことであるか、皆さんには分からないんでしょうね。
僕は女になって◯◯に近付きました。
OLになった彼女は今でも演劇をやっていて、僕も彼女と同じ社会人劇団に入ったんです。
同じ劇団員として僕は彼女に話しかけましたよ。
『◯◯さんて今、彼氏とかいるんですかあ〜?それとも、彼女だったりして』
『何。いるんですかあ〜って。もうずっと彼氏できなくてマッチングアプリやってんのよ最近』
『え、マッチングアプリで彼氏探してるんですか』
『え、なんか悪い?良いじゃん、マッチングアプリ。効率的に男と出会えるし』
『◯◯さんって女の子が好きなんじゃなかったんですか』
『何それ、誰から聞いたの?
確かに高校生の時は好きな女の子いたけど、そういう年頃ってあるでしょう?
私、当然だけど、男しか愛せないよ?』
『そう…なんですね。
でも、マッチングアプリっていうのはどうでしょうか。
例えば、◯◯さんのことを狂おしいくらい好きな男…とか女とかがいるとして、兎に角、◯◯さんじゃなきゃダメだと、◯◯さんから愛されるためには何でもやると、そういう人間がこの世のどこかにはいるのかもしれない。
そういう可能性に対して、マッチングアプリって失礼な感じしませんか?
条件さえ合えば、もはや誰でも良いんですよって宣言しちゃってるような感じがあって…。
もし、◯◯さんが誰でもいいから誰かと出会いたいなんて言ったら、◯◯さんのために全てを投げ売った人間はどう思いますかね?
そういう可能性を否定してー』
『何熱くなってんの?
気持ち悪いよさっきから。
マッチングアプリで知り合って何が悪いの?
私だって誰かに愛されたいのよ!
みんなやってることじゃない!』
…
本日はLGBTQの未来を考える会にお招きくださり有難うございました。
ただ、正直よく分からないのは、どうして私がLGBTQの未来を考える会に呼ばれたのか、ということなんです。
私はゲイではありません。
レズではありません。
バイセクシャルでもトランスジェンダーでもありません。
今となっては、男でもなければ、女でもありません。
以前持っていた名前はもう失いました。
私はこの身体を脱ぎ捨てて、誰でもいいから誰かになりたいんです。
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