ブタの消しゴム

「お前ブタな」と言われて
渡されたブタの消しゴムを
「オカンはブタや」と言って
母に渡した息子がいたんだとか
その時の母の
悲しいとも
腹立たしいとも
とれる
表情に
息子はいたたまれない気持ちになったんだとか

そんな息子も大人になって
家を出て
妻を持ち
ささやかながら幸せに過ごしていたそうな

ある日実家に帰った息子は
偶然に それはもう偶然に
あの日のブタの消しゴムを見つけた
一度も使った様子のない
ブタの消しゴムを見て
息子はあの日と同じ
いたたまれない気持ちに
ちょっぴりやるせなさを足して
感じんたんだとか

これはくたくたに煮込んだ大根のように
人から聞いた話で
この話をしてくれた人もまた
誰かから聞いたんだとか

で、隣家からの夕餉の匂いのような
郷愁に導かれて
息子の気持ちなんて知らずに
ブタの消しゴムを今も
母は抽斗に大切にしまっていて
大切にしまっていることすら
忘れて
その疲れ果てた手で
ちょっぴり甘めのカレーに凝っている


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コメント

“ブタの消しゴム” への2件のフィードバック

  1. 花緒
    花緒

    ええやん!

    楽しく拝読しました!。ネット詩らしいジャンク感と抒情性。

  2. それいけ!まちか2世
    それいけ!まちか2世

    花緒さん、はじめまして。
    ありがとうございます。
    楽しんでいただけたようで嬉しいです。

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