西男は結婚したかった

西男は結婚したかった
西男は結婚するなら誰でも良かった
西男は結婚するために遮二無二働いた
働けども働けども
花嫁は現れない
西男は上司に風俗に誘われた
西男は初回上司の金で風俗に行った
風俗嬢はやさしかった
何もできなくても何もかも心得ていた
西男は風俗嬢に
世の中というものを教えてもらった

世の中というのは
友達が二・三人用意されていて
それは大学や学校で出会うものであり
友達との会話の限度は二時間
金額でいうと二千円くらい
流行り物の店とドトールをはしごして
会話は仕事の愚痴とマッチングアプリで終わるらしい
西男は高卒で障害者枠で会社に入った
高校の友達はいるにはいるが
あとのことは怖くて聞けずじまいだ
風俗嬢が「連絡取ってみたら?」
というので片っ端から連絡してみた

高校生になっても鼻くそを食べてる石田くん
は地元のカラオケ屋でバイトしていて
男性器がハンバーグみたいで虐められていた高橋くんは
うつ病になってB型作業所に行って
かっこいいのに変な女に好かれて自我を失った柳くんは
両親の店を継ぐつもりでガソリンスタンドで働いていた
最後に一人だけ 唯一の女の子
場面緘黙症でいつもおかっぱの
あいこちゃんに連絡した
あいこちゃんは相変わらず
喋れなくて
自立もしてなくて
月五万もらえる年金を
親に預けて
週に一回 近くのコンビニで
たんまり お菓子を買う
僕となんか話せなくていいけど
二千円おごってもいいなと思った

風俗嬢が
「あいこちゃんのこと好きなんじゃない」
と聞くのだが
僕はあいこちゃんのことを
そういう目で見ることはない
なんていうか、眩しすぎるんだ

僕は風俗嬢とデートがしたい
けどお金がつづかず
風俗も行かなくなった 今年の秋
僕は正社員になった
西男は結婚したいけど
なぜ自分に正社員のお鉢が回ってきたのか
よくわかっているつもりだ


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コメント

“西男は結婚したかった” への5件のフィードバック

  1. 花緒
    花緒

    とても面白いですね。
    1行1行が面白いですし、可読性が高くて、それでいて全体として何なのかがわからない、異質性が魅力です。

    自動筆記的な手法なども活用しつつ、読めなくしてしまう現代詩の手法とはある意味で正反対で、1行1行全部読めるのに、そして読み進めたくなる面白さなのに、「読めない」作品であることに、興味を持ちました。

    西男が途中から僕に変わったり、極め付けは、なぜ彼が正社員になったのか読者には知る由がないのに、西男にはよくわかっていることのようであるところ、異質感が伝わってきて面白いのですね。

  2. 西の子
    西の子

    西男と僕と人称が違うのは自動筆記的にそうなったんですけど、自分のこと僕とかわたしとかって言うのは本音中の本音を言うときなんじゃないか、あとはみんな三人称で自分のこと苗字で呼びながら生活してるんじゃないかと思いながら書いてました。

    西男がなぜ正社員になったのか、自分ではよくわかってるつもりだ、みたいなところって、人によっては「自分にもわかるところがある」と詩を補えるところがあるだろうなと思いながら書いてたんですけど、まさか詩の全体性をオチが担っているんだということは、自覚してなかったので、あまりに空白が多い絵だから読者も補いようがないのかなと気づきました

  3. 吉岡繁樹
    吉岡繁樹

    おはようございます。
    面白いと思いました。
    読み手は、「わかるところがある」
    と思います。ゆだねて大丈夫と思います。

    僕は書き出しの一行目がタイトルになってる詩、好きです。

  4. 花緒
    花緒

    ビーレビュープラスを開くと、この作品を再読したくなる感じがあるのですが、わかる感じとわからない感じのバランスが良いということと、やはり初読の方が異質感がつよめに伝わってくるのでよく感じられるということを思いますね。

  5. 西の子
    西の子

    吉岡繁樹さん
    ありがとうございます。まあここまできたらなぜ西男に正社員のお鉢が回ってきたのかを語るのは野暮ですかね。言えることも言えますけど、言葉にしたら逆にわからなくなることもあると思います

    花緒さん
    異読感はたしかにあるだろうなと思いました。わからなさそうなことには説明を尽くすという、文章上の礼儀を欠いているので。だけど、ここでは読者の良識に委ねることをしてみました。

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